医学資料青年期

ダウン症者の成人期医療について(小野 正恵 先生講演記録)

ダウン症者の成人期医療について(講演記録)

小野 正恵 先生

よつばみらいクリニック院長
元東京逓信病院小児科・東京ダウンセンター


*本記事は2022年に茨城県ダウン症協会のZOOM講演会にDSIJ事務局がお願いして収録させていただいた、ZOOM記録を文字起こしして修正したものです。公開について演者の小野先生の了解をいただきました。(図は追って追加されます。DSIJ百溪)


今日のお話ですけれど、ダウン症候群を持つ人、ダウン症、ダウン症を持った人、ダウン症のある子ども等色々な言い方がありますが、講演の中で若干不統一なところがあるかもしれませんがご容赦ください。

今日のお話は、1:ダウン症児の出生動向、2:ダウン症者の自然暦、3:合併症、4:生涯にわたる健康管理、5:成人期地域医療、6:当院(東京逓信病院小児科・東京ダウンセンター)での取り組みについてご紹介できれば良いと思っています。

ダウン症の人の出生動向

ダウン症の人の出生にはお母さんの年齢がかなり関係します。お父さんも多少は関係するのですが、やはり女親の年齢というファクターが大きく響くので、世間一般ではお母さんの高齢出産に伴う増加というのが言われます。他に13番、18番といったトリソミーも当然増加します。ただ、ターナー症候群とか、クラインデルター症候群と言ったものは起こり方、発生の仕方が違うので、年齢依存性ではありません。
ダウン症候群では人間の一番小さい21番目の染色体が3本あり、トリソミーと言いますが、染色体がとても小さいので全チアに対する影響が非常に小さいです。そのため、ほぼ健康で生まれてきてくれるお子さんもたくさんいるということです。そうして私達が出会うことが頻度として多くなるわけです。

常染色体の1番目が多いと生きて生まれてこれないので、無事に生まれてきてくれたことだけでも喜ぶべきことです、ありがたいことでございます。実際にどのくらいの数が生まれてきているかですが、これは佐合・佐々木先生らの報告(2019)ですが、毎年2000人ほど生まれているという数字が横ばい状態になっているのが現状かと思います。高齢出産は増えているのですが、それに伴う、出生前診断の影響も多少はあるかなと思います。

ダウン症の出生前診断

この50年間の間に、ダウン症の人の生命予後は50年延びた事になります。1年毎に1年延びてきたという形になっています。全国に今、8万人以上の方がいると計算されます。年齢依存性とは言われますが、毎年2000人ずつが生まれています。近年、NIPTと呼ばれる出生前診断が言われていますが、検査は普通の採血でできます。

出生前診断

お母さんの血液の中に子どものDNAの断片が一定量含まれています。それを検出して量を読み込むことができて、21番目の染色体に含まれるDNAの配列が多いぞということがわかるとトリソミーの可能性が高いことがわかります。この読み込む数が多ければそれだけでかなりの正確さでわかります。しかし、実際にはダウン症ではないのに少し多く出てしまったり、間違えた結果が出ることが一定数あるということです。それでもこれまでのクアトロテストなどの血清マーカー検査に比べると正確度が増した検査です。

このNIPTをやるについては、遺伝カウンセリングは必須であり、医療者の価値観を押し付けてはいけないなどと言いながら、現在の遺伝カウンセリング学会、その前の臨床遺伝学会の倫理委員会の会員として、そして他の学会と膝を突き合わせて、さんざん論議をしてきました。そしてスクリーニングテストのようにならないように、今いるダウン症の人達、そしてこれから生まれてくるお子さんたちがマイナスの扱いを受けないように、守ってあげなければいけないという事でずっとやってきました。でもNIPTが技術的に簡単にできるようになってきてしまった事、それから、日本での実施も法律に縛られて実施されるわけではないので、例えば美容外科の先生がちょっと収益を上げたいし、受けたがっている人がいるのだから、win winという考えで、簡単にやってあげますよ、面倒な話はしないでやってあげますよというところがたくさん出てきてしまった。それを法的に縛る背景というか元がないものですから、なかなか性善説に立って考えてもなかなか大変だということが現状に至る背景としてあります。

とても危機感を持ったので、こういう出生前診断を誰が受けるか受けないのかを決めるのかということを、坂井さんというNHKのディレクターなどをやった方が気持ちのある人と本を出しました。(坂井さんは後に乳がんで亡くなりました) 私も小児科医の立場で書かせてもらいました。それでもなかなか大きな動きの中で、抗うことが難しくてということはあっても、非常に真面目に考えて下さる方々は重要に受け止めて行動に移してくださっていると言うように思っております。

6月24日に、「女性の人工妊娠中絶を認めない」と、アメリカの連邦最高裁判所が49年目の判決を覆しました。今アメリカの社会は分断されていますが、リベラルの民主党バイデンさんは怒っていますね。必要なときには仕方がないのではないかという中絶容認派と共和党のトランプさんのように中絶は絶対だめだという中絶反対派の保守的な対立になっています。少し、政争の具にされているところもあると思います。人はいつから人なのか、人になりうるかの可能性を限りなく持っている人の権利をどうやって守るのだ。とにかくそのように神のような判断を一体誰が、偉そうにできるのだと言うことになります。1973年にロー対ウェイド判決というのがあり、原告は妊婦ジェーンローさん(仮名)。訴えは州法にある「母体の保護するために必要な場合を除いて人工妊娠中絶を禁止する」というのは女性の権利を侵害して違憲だと訴えたのです。これに対して連邦最高裁判所は女性の中絶を合憲とする法律を制定し、「胎児が子宮外で生きられるようになるまでならば中絶は認められる」として、中絶を原則禁止にしていたテキサス州の法律を違憲と判断。もっと自由であるべきだと言ってそのまま約50年が経過していたのです。妊娠後期に入るまでの中絶を認め、今日に至っていました。

今、アメリカの中間選挙が近づき、民主党対共和党の言い分の違いにも影響し、ゴタゴタしているようです。この問題を政争の具にするのではなく、胎児を誰がどう守っていくのかは皆がもっとよく考えていくべき問題かと思います。米国の最高裁の判事というのは、全員大統領が決めるのです。そのため司法の場は独立しているとは言え、若干偏っていると思います。現在はかなり保守的な方に傾いている状況で物事を決めていると思われます。人種差別、同性婚とかも最高裁判決が出ていますが、銃の規制もなかなか決まらないです。銃の乱射事件が学校で起こると、それでは先生に銃を持たせて、悪いやつは撃って子どもを守るべきだという方に結論が行ってしまう国のようです。銃など絶対に規制するべきと思うのですが、なかなかそうはなっていないようです。

ダウン症者の自然歴

自然歴の話題に移りましょう。先程触れたように50年間で50歳ほど平均余命が延びました。本当に長生きしてくれるようになって嬉いことです。しかし、40歳のお母さんからようやく生まれたお子さんがダウン症だった場合、子どもが50歳になったときに親は90歳です。9050問題と時々申し上げています。親御さんも認知機能低下になって、親子揃ってどこかの施設に入らなければいけないということもあります。

できるだけ一人ひとりが良い人生だったねぇとなるためにはどのように気をつけていったら良いのか。本当に現実問題としていろいろ考えていかなければいけない時代となりました。寿命は0歳児の平均余命ということですが、今目の前にいるダウン症の赤ちゃんはどのくらい生きられるのでしょうか?大昔であれば心臓の外科手術も受けられず、いろいろな合併症の治療も十分されなかったので短命に終わる方ももちろんおられました。今生まれたダウン症の赤ちゃんは平均でも60年は堅いよということになっています。もっと長生きしていただいている人もいらっしゃいます。ですから、だいぶ先のことも考えなければいけないという時代にもなりました。

ダウン症児・者の一般的経過は小さいときにはいろいろな合併症もあります。生まれてしばらくしてから歩けるようになって、歩けるようになったら次は何ができるかなぁと思い、リハビリもやるし、いろいろやるのですが、一通りのことができるようになると、あとはもう大丈夫みたいな形で言われていますね。

まだ生活習慣病も出てこない時期となるとちょうど、空白のところが出てきて病院から縁が遠くなる時期があります。しかし、実を言うとこのあたりが非常に大事で、人によってはメンタルの面で20〜25、30歳くらいのときにちょっと気になる症状が出てくる方もおります。ですから、もう何も問題ない、20年くらい病院にかからなく放っておいてよいというわけには全く行きません。

ダウン症の素質を持っていてもいろいろと活躍されている方は各界にたくさんおられますね。芸能界の方でも公表している方が多いです。ヒップホップダンスで逆立ちしている写真を見て「首の骨は大丈夫なの?」と言った人がいますが、首の骨がグラグラする人はごく一部の人です。*日立の渡辺さんの息子さん 研一さんの出ている「I have beer lover. I have Down syndrome」の世界ダウン症の日の啓発ポスターを見せてくれました。

三宅先生らがJDS(日本ダウン症協会)の会員にとったアンケート結果ですが、5025世帯12歳以上の当事者852人に「毎日幸せに思うことが多いですか?」とアンケートしたところ、はいが72%、ほとんどの日でそう思うが20%と、90%以上の方が幸せだと答えています。

ダウン症の合併症

これにはいろいろあり、一覧表がありますが、このどれもこれも持っている人という方はおりません。ただ、小さいときに心臓に穴が空いています、腸が通っていないです、ホルモンの出が極端に悪いです、白血病もどきが出ていますなど。本物の白血病が出てきた時のあとの時期に、何に気をつけたら良いでしょうということになると、代謝の問題、内分泌の問題、時々感染症、眼科耳鼻科の問題、整形外科の問題などが出てくるかもしれません。

合併症の中で特に目の問題というのはかなりの頻度で起こります。これは程度問題ですが、情報を取るための重要なところですから後でまた触れることにします。目と耳の問題は重要です。

整形外科ですが、外反扁平足と言って、足の裏が平で立った状態で重心が内側に入ってしまう。内側の側面であるところが下の方に入ってしまうほど歪んでしまう。これが外反足です。適切なインソールを使うと歩行姿勢も良くなるということから、ある程度歩けるようになった頃に入れると非常に歩行姿勢を改善できます。そして変な癖がつかないと膝や足首への負担も軽減されます。これは大切なことですが、全員に必要なことではありません。半分以上の人には必要かもしれません。

首の問題は有名になっていますね。そのせいか、まだ歩きもしないのに、首は?首は?と心配される保育園とかがあります。あまり小さい赤ちゃんですと、レントゲン写真をとっても、まだ骨が良くできていないので非常に映りが悪く、判断は難しい。ある程度歩けるようになった頃、運動が活発になった頃に、しっかり見てもらい、小学校に上がるときによく見てと言っています。ちょっとした外傷といいますか外からの外力で、ごく小さいときではないときに環軸椎亜脱臼が問題になる人も中にはいます。でもこれがグラグラしているからと固定する手術をしましょうという人は本当に一部で、100人に一人くらいかもしれませんが、注意はしておいたほうが良いでしょう。

血液の病気は、赤ちゃんのときに一過性骨髄異常増殖症(TAM)が起きた人では4歳ぐらいまでに本当の白血病になりやすいという傾向があります。しかし、新生児期にTAMになっていないダウン症のお子さんが白血病になる頻度は非常に低いものです。とは言ってもダウン症でないお子さんよりは高い傾向にあります。皆がなるわけではないのです。
感染症ですが、よく感染症に弱いと言われますが、免疫異常の病気ではありませんので、小学校に行くくらいになったら他の子どもと遜色ない免疫状態になることが圧倒的に多いです。家族全員コロナに罹ったとか、インフルエンザに罹って家族が倒れていても、ダウン症の本人だけが罹らないで、ニコニコしながら笑って一人元気という話も良く聞きます。
しかし、ワクチンを受けて予防できる病気に対してはできるだけ受けていきましょうとお勧めしています。真面目なお母さんが多くて母子手帳の予防接種欄がきちっと埋まっている方が多いです。
RSウイルスのように特殊な感染では2歳位までにかかるとかなりきつい肺炎になったり、普通の子どもが1週間入院するところ、2週間位かかることがあるので注意しましょうと言っています。非常に高価で1回17万円もかかりますが、保険もありますから2歳まで流行期に月一回のシナジス(パリビズマブ)の注射を受けましょう。RSウイルス感染は、昔は冬に多く出る感染でしたが、近年発生月が前倒しの発生が見られます。今年の6月にはRSウイルスの感染者が全国で1000人近く出てきています。

てんかんですが、これもちょっと見逃されやすいのですが、低年齢の方には発症してもおかしくはないのです。急に変な動きをする、急にカクッと力が抜けたようになる、急にフッと驚いたような動きをする場合には、そのときにすぐスマホで動画でも撮って医者に相談してください。成人になったお子さんをお持ちの皆さんですと、急にてんかん発作が起き始めるということは非常に少ないです。しかしゼロではありません。

眼科疾患ですが、遠視や乱視は非常に多いです。白内障も一部にあり、白内障が派生して進むということは一般の方より多いです。時々チェックしておきましょう。視覚はすべてのコミュニケーション能力などに結びつく大事な機能です。目の見え方、耳の聞こえ方は少しでも是正できるものはやっていきましょう。

療育教育の重要性

療育や教育は大変重要です。これを重要視しないで年齢が高くなってからやろうとしても難しい。小児期から続いていることだということだと思ってください。お子さんが小さい人は今から手を抜かずにきちんと重ねていくことが大事ではないかと思います。もしお子さんが大きくなっている場合には、あの時あれをやっておけばよかったなどと後ろを振り返らないで、これから何をしたら良いかと思ってください。

小さいお子様の親御さんがおられると思うので、少しだけ言いますと、歩き始めは大体2歳位。その頃に意味のある言葉が少し出始めると嬉しいなというところでしょう。しかし、言葉の発達にはずいぶん個人差もありますので、どうかあせらないでください。

うちではダウンのお子さんが良い姿勢で歩けるところまでを目標にした早期療育を目標にしてやってきて17年目くらいになります。藤田浩子先生の考え出した、それこそ何もなかった50年前に考えてくれた赤ちゃん体操というのがよくできているので、これを導入していますが、現在はコロナのまん延で密な感じではやれなくなくなりました。こういうことを続けてやっています。

言語は、石上志保さんという有能な言語聴覚士の方が非常勤で来てくれており、ダウン症の方の指導としては特性を踏まえた指導が大切です。ダウン症時の場合には言葉(言語音)を頭にとどめておくことが苦手で、一つが最も多いです。71.4%の児童の言語理解力が3歳未満くらいです。そのため、「これはこうする。」「次はこうする」「わかったかしら」とゆっくり、はっきり文章を短く区切って話すことが大切で、繰り返し聞かせることや、復唱や聞き取り課題なども有効です。子どもの能力にあった配慮で、トレーニングしていくと良いでしょう。石上先生は教材も色々作っておられてインターネットで購入もできます。オノマトペという擬音語、カラスなら「カーカー」とかです。ぱぴぷぺぽの破裂音は言いやすいので、ママよりパパという言葉を早く言えるようなのでお母さんがガックリされることもあるようです。単に言いやすいか言いにくいかの問題です。

次に教育をどうするかの問題ですが、教育の場や就労をどうするかなどをその時その時に選んでいきます。先程、永井様でしたか、特別支援教育に長く携わっておられた方がおりましたが、教育者の立場ではどうだったかなぁとお話しを伺いたいところです。それぞれの子どもの能力を最大限に発揮したところで、この子ならここまで出来るのか、それではこういう道が良いのではないか、興味のあることなど一生懸命で考えてくれますが、そのときに若干「背伸び」になってしまっていることがあって、背伸びして頑張って就労などの環境に入ったときに、どうも息切れしてしまうことがあります。これだけ頑張ってもまだこんな感じでまだ、頑張れって言われる。もうだめだぁ。と疲れてしまう人も時々はいるのです。お子さんの様子を見ながら選んでいかなければいけないなと思います。

教育効果に視覚聴覚は非常に影響しますので、いつもチェックを入れて、中耳炎(滲出性中耳炎)が起きていないか、視力や視野などの視機能が大丈夫かを丁寧に見てください。

それから自閉傾向があるかないかもポイントです。自閉傾向があることをダウン症のお子さんだと特に指摘しないで、触れずに過ぎていって自閉症であることを認識されていない方がたまにおります。この場合には単に知的に難しいということではなく、自閉傾向があるゆえに、なかなか言語発達もゆっくりだし、指示が入りにくいことがあります。そういう背景をしっかりわかった上で、介入して指導していかないと親が疲れ切ってしまったりするので、そこは丁寧にお話していかなければいけません。

それから、よく褒めることです。人間は褒められるのが大好きです。0歳から100歳過ぎても褒められることは大好きです。褒めることを上手にしましょう。みなさんもお子さんを褒めるということだけでなく、いろいろなことを乗り越えて頑張って子育てをしてやっているというご自身が誰かに「よくやっているねぇ偉いね。」と褒められると「そうねぇ私もよく頑張っているわ」と自分で自分のことも思えるようになるかなと思います。
お互いに褒めましょう。

定期的に受診することは大事です。よろしくお願いします。

生涯にわたる健康管理

小さいときに話して来たようなことをいろいろ見ていくのですが、だんだん年齢が上がると、学校に通っていたときには体育の時間にずいぶん身体を動かすので、それなりの運動量がありました。ところが、作業所に行った、コロナもあるのでなんだかあちこち行かれない、清掃の係の人だけは外で動くけれど、室内で座業をするとなんだか消費エネルギーが少ない、ちょっと肥満傾向になってしまった。仲間にコロナが発生した、また全員が自宅で待機を命ぜられた。親にも仕事があり、一人で出かけるのも危ないから家にいなさい。美味しいものが食べられる、アイスクリームの味を占めるということになってします。ここのところ、一般の方もコロナ太りということがあります。だいぶぽっちゃりした方も増えました。そうなると、なかなか重い体を動かしてさぁ運動しましょうと言うのは自分の力だけではなかなか難しいものです。ですからそのような傾向が見えたら、すかさず動く、運動するチャンスを作ってください。もうしっかり太ってしまってから、体重を減らすのは難しいのです。なので、そういうことに気をつけていただきたいと思います。

小さいうちは小児科が一生懸命診てくれます。

特に小児科の医者にとってダウンのお子さんは可愛くてしょうがなくて、一生懸命診ています。20過ぎても30過ぎても親御さんもちゃん付けで可愛がっておられるし、こちらも、あの時赤ちゃんだったなぁと思いながら診てる。それでは40歳になったら内科に行くのか、50歳になったら行くのかということになってしまいます。この「移行医療」というのが今非常に注目をされてというか、大事なこととして思うようになってきました。

東京であれば、国の施設である成育医療研究センターとか、神奈川県や埼玉県にも専門外来があります。ダウン症の総合的な外来を茨城にも作って欲しいとアンケートに書かれていましたが、あくまで両県は小児医療センターで、子どもの病院です。小児の対象は15歳までです。16、17歳となると小児科の対象ではなくなるよということですから、早めに中学に入った頃に、少し大きくなったら今度はどの医療機関に行こうかと考えようねということをゆっくりやっていくことが本来あるべき姿だという方向になりつつあります。成長とともに、小児科でなくては行けない時期から、小児でも内科でも大丈夫という時期、これはもう大人の科でないと難しいねという風に段々と移行していく。これを病気の種類やその方の性格だとか、いろいろな点で少しずつ違いますが、だんだんに移して行かなければいけないです。小児科の医者が100歳のダウン症の方をずっと診ると言うのは無理があるわけなのでだんだんに移行していく。

これを移行医療といいます。

移行する前は年に一回くらい、いろいろな検査をしていきましょうねと言うのですが、移行後もだいたい、検査の間隔は伸びても良いのでしょうが、本人の状況に応じて定期検査も重ねていかないといけないことになっています。白内障が見られる方で、思いの外進みが早いことがあるのです。作業所に行っていてよく見えなくなってきているのに、周りの人はその事がわからない。「もうちょっとよく見てやりなさい。」「前にできていたのに、なんだかいい加減な仕事ぶりになってしまったね。」と。よく見ている指導者だと気づくことがありますが、少し早く進むことがあることを知っていてください。

成人期以降に多い問題

生活習慣病が進むことがあり、甲状腺疾患などがよく見られます。活動度の低下(いわゆる急激退行)は年長、20歳近くなって、あるいは少し過ぎて、青年期と言われるころにそれまでずいぶん快活に活動もそこそこ良くできていたのに、急にできなくなって、「こんな子じゃなかった。急に元気がなくなった、もっと活発だったのにどうしちゃったのだろう」と。結構変化が急なので、教育現場の方たちが名付けたものです。これは医学的な退行の定義からは外れますので、「いわゆる」という言葉を私はつけて使っています。以前に比べて表情や活発さが急にレベルダウンしてしまう現象があります。
家族構成の変化による精神的影響などもこの変化にすごく大きく影響しています。

ダウン症児・者のメンタルの特徴ですが、幼少期にはなかなか言葉が通じないので、伝えられないことにイライラしているとか、自閉症を伴っている場合には言語発達が富に遅れていて意思疎通が図れないために、非常にいらついているということがあります。自分がやろうと思ってもうまくできないのだ、伝わらないのだと自覚してプライドに傷がついたりして、すねてしまうということもあります。

青年期には就労後の環境の変化、退行性の症状一過性の反応性うつ、そしてこれも多いのですが、引きこもる、退行性症状、認知機能低下、妄想、独言、幻覚症状、うつ症状、統合失調症と診断されることもあります。

「退行性の症状の診断の手引」というのを小児遺伝学会が出したことがあります。これによると、動きがゆっくりになる、表情があまり出ない、とにかく会話や言葉が少ない、人に対する興味が失せている、閉じこもる、眠りが心地よくできない、食欲がないとか、逆にすごく過食になるとかなどの症状が典型的です。

いろいろな病気を除外する

青年期の症状が何に起因しているのか、他の病気を除外しないといけません。調べてみたら、てんかんを発症していたとか、甲状腺のホルモンがこんなにおかしかったのね、など調べてわかることがあります。個々の病気は全部スクリーニングして、急に症状が出てきたけれど、こういった病気ではないなと言うことをまず見ないといけないと思います。その上で、じゃあ背景には何かないかなと考えなければいけません。身体的疾患のスクリーニングをして、それでは他に何か原因になるものはないのだろうかと、心理的変化をもたらした可能性のある原因を検索します。その時、家族構成の変化では、例えばずっと自分をかわいがってくれてきたお姉さんが、素敵な男性と結婚して家を出て、別に家庭を持ちほとんどうちには来ない。「寂しいな。でもしょうがないね、お姉さんには幸せになってほしいね。」「そうだよね」と家族と話すのも言語的にはなかなか難しいので、自分でもよくわからない、寂しいうつろな感じだけが押し寄せてくるということもあります。そして、就労後の環境としては学校のときには先生方がとても良くサポートをしてくれますが、ジョブコーチによっては「ほら、これだけ出来たんでしょ、だったらもう少しできるんじゃないの、頑張ってやらないと」などと言われてもうヘトヘトになってしまう。

また、職場でとても良く面倒を見てくれた人が職場異動でいなくなってしまって、「がっくり」などの心理的な変化も大きく関わっていることがあります。そのような環境調整をするときにはよく気をつけて心の動きを探って、お話を聞いてあげる必要があります。

うちの診療に来られる方の中には本当に思い余ってと言った気持ちで来られる方も多いのですが、よくお話を聞くと、たいてい何らかのきっかけがあります。精神疾患というケースもあるにはありますが、大部分は、それではこうしてみたらという環境調整ですごく良くなる方も結構います。規則的な生活をするということがまず大事です。

成人期以降の合併症で気をつけなければいけないことは、生活習慣病、肥満、高脂血症、鬱の状態、白内障、誤嚥を起こしやすい摂食嚥下障害が時々出てきたり、睡眠時無呼吸症候群が出てきたり。「肥満を少し改善しないと無呼吸も良くないですよね」と言われて、耳鼻科の先生も「まず痩せてくださいな」ということも多いです。

睡眠をちゃんと取るために

メラトニン関連の薬を使ったり、睡眠薬を少し使ったり、向精神薬、漢方、抗認知症薬(アリセプト)などを使うこともありますが、精神科の医者と連携していくということでやっております。一般的な薬は私どもでも出しますが、色々な科の先生と連携してやっていきます。

 成人期以降にはいろいろな機能低下が起こることがあり、様子を見ようということもありますが、この期間が長すぎるとなにかの発見が遅れて、もう少し早く対応できていたら良かったねということもあります。ですから、変化を感じたらご相談いただきたいと思います。

青年期以降のダウン症者診療が難しい理由

青年期以降診てくれる病院が意外に少ないということがあります。何となく敬遠される。それはダウン症をよくわかっておいでの先生が少ない。特に年齢の高くなってきた人をあまり診ていない。知らないことは皆不安で、また責任を持てないのだと思います。検査のときにいちいち鎮静が必要な場合もある。長い時間かけて説得して安心させてからやるという時間が取れないとか。継続的、包括的な診療を受けていないことが多い、過去の治療経過や発達経過の記録が不明なこともある。成人科の医師のダウン症の診療経験が少なく、慣れていない。また、経験が必要で、診療に時間がかかるにも関わらず診療対価が実情を反映していない。本人もいろいろなことを言葉で伝えることが難しいという場合もありますが、やはり本人の言い分をよく聞いて、落ち着いた環境でよく聞いてあげると結構意思表示してくれます。その努力をちょっと惜しまれることがあるということが問題ですね。

成人期の精神・神経症状

早期退行様症状(いわゆる急激退行)にはいろいろな症状が入ります。活動性の低下、動作緩慢、乏しい表情、会話・発語の現象、睡眠障害、食欲不振、可逆的な心因反応が多いです。

アルツハイマー型の認知症

これは40歳頃からはかなり進みます。脳の中にアミロイドβが蓄積しますが、症状が出る20年前には始まっています。その延長線上に妄想やてんかんの発症もあり対応が難しいことも複数の医者が連携して一緒に対応していくシステムが良いかなと思っています。ダウン症の認知症の発症頻度としては2019年のJAMA神経学という雑誌には55歳までに61%がアルツハイマー病や他の認知症を発症すると報告されていますが、実際にそのような感じです。そのためには、一人の医者や一つの単独の科が頑張ってやるというよりは、皆さんで連携しながらダウン症の人に向けて手を繋いでいくと言うことが必要かなと思います。

入院施設もあって連携できる総合病院、大学病院など高度治療のできる医療機関、それから家庭医。少し前ですが、プライマリーケア学会という学会があって、そこに入っているような先生はとても積極的で、ダウン症のことについてもどんどん聞いてくれて、積極的でした。そういう先生方と連携しながらというのが本当はいいかなと感じました。

ダウン症を持つ方に対して大切なこと
1. 個人差や個性の違いを大切にする
2. 総合的診療やアドバイス
3 常にわかりやすい言葉で説明
4. 家族自身の持つ力を引き出す
5. 持続的なフォロー
6 低年齢から発達障害に注意
7.年齢相当の対応
子ども扱いしすぎない
8.生活習慣病は親の体質が土台
(痛風になりやすいと言っても父親も薬を 飲んでいるケースも結構あります。親が糖尿病ならダウン症に限らず子どもは要注意です)家族ぐるみの健康管理。
9.頑張りすぎない(本人も親も指導者も)

より良い明日のために

注意点としては、幼少期の体調と発達の密接な関係、思春期以降には環境の変化と精神的ストレスに気をつける必要があります。注意点をまとめると以下の様なことになります。
本人の訴えに耳を傾ける事」が常に大事です。
そして「丁寧な対応、迅速な対応」です。
「長期的視点に立って考えること」も大切。
そして、「できることはすべてやる」です。
そのためにも「観察と関心(医師、家族、教師、地域)」が必要。
「訓練の反復、経験の積み上げ」はとても大事で、例えば、咀嚼をきちんとする習慣は誤嚥性肺炎の予防にもつながるし、滑舌をよくすることにも繋がります。
「運動習慣の継続」はこれまでお話したように様々な点で有効です。
「定期チェック・受診、指導」を受ける必要があります。

「自立を目標に準備する」ことはそれぞれの子どもなりに。
そして、「一般社会へのメッセージ発信」として、親の会の活動があります。本人がうまく言語化して自分でメッセージを発せない部分については、親たちがやらなくて誰がやるのですかということです。

ダウン症に関しての「医療的目標はダウン症者の一生を念頭に置いて対応できること」そして、「小児科医・総合診療医の育成と多科医師とのシステム作り」でしょう。

東京逓信病院 東京ダウンセンター(TDS)での試みのご紹介をします。

私は複数の科の先生それぞれに「いきなり診てください」というと、ポーンと断られるかもしれませんね。ところが「ダウン症のメインの部分についてはこちらでちゃんと診ますから、ちゃんと間をつなぎますから、この科ではこの検査をしてください、手術をしてください。他では皆断られていてうちでしかやるところはないのですからやってください。大学病院が断ったのですから言語道断ですよ。先生ちゃんとやりましょうね」ということを言って、ちょっと強引にでもやっているということです。その結果、何でもやってくれるような結果になっております。この状況はありがたいのですが、誰か核になるドクターがいて強引にでも仕切らないと、なかなかみんな尻込みをしてしまうかなと思うので、そういう先生を増やすこともやっていかなければいけないかなと思います。

今、60代の方までを診ております。私が一人でということではなく、必要なところは内分泌代謝の先生であるとか、他の科の先生と連携しながらやっております。

ある自閉症を伴っている方は、診察室に入れないとの理由で他の病院での診療を断られました。うちの病院では、きちんとした手順で手術まででき、400gもある精巣腫瘍が取れて、今もニコニコ元気です。

「生んでくれてありがとう」と言ってくれる子が時々います。
こちらとしては「生まれてきてくれてありがとう!それだけで幸せだよ」という思いだけです。周りがそういう気持ちでいることは本人もかなり理解してくれるようです。
今後も皆さんと手を取り合ってやっていきたいと思っています。ご静聴ありがとうございました。


(司会)ここで質問をお受けします。

(質問者A)うちの子どもは23歳ころから動作が緩慢になり、こだわりも増えてきたのですが、最近気になるのは指の使い方がおかしくなりまして、親指、人差し指、中指の3本の指でしかものを掴まなくなってきました。手をぱっと広げるようなことをしなくなりました。ギュッと握り込むようなこともしません。本人に促してもそれは嫌みたいでやらないのですが、それは自閉的傾向とかによるものでしょうか。

(小野先生)自閉的傾向ということですが、自閉症が23歳で出てくるということはありません。自閉症であればその傾向は小さいときから認められますから。途中からということでは自閉ということではないと思います。

(質問者A)そうしますと、そうしないように日々促していくしかないのでしょうか。

(小野先生)機能的に麻痺しているとかではないのですよね。何か突発的に握らなければいけない状況でそうできたら「あらできるじゃないの」と言ってあげると良いこともありますよ。色々なこだわりがちょっと出てしまうことがありますよ。時々そういう方をお見受けします。

(質問者A)トイレが遠いです。排尿を自分から行かないのです。放っておくと朝から行かずに夜初めて行くということもありますが、それに関してはいかがでしょう。

(小野先生)排尿が一日に1、2回しか行かないと言って大丈夫なのかと心配になるケースが時々あります。やはり尿の検査をしてどのくらいの比重であるとか、血液検査もしていわゆる老廃物(尿素窒素など)の値が異常ではないかとか、ダウン症の方は水分摂取がそもそも少ないのです。お水を飲むように促しても「いらない」とか言って、脱水になるから少し飲みましょうと周りがハラハラしながら水分を摂取させて、ようやくみたいな人が多いです。ですが、一回の尿量が多いことが多く、結論から言えば病的なものではなく、排尿機能は良くないのですが、腎機能が悪いとかではないことが圧倒的に多いです。とは言うものの腎機能や尿のチェックを時々はしないとまずいですね。なんらかの病気があってそうなっていてはいけませんから。尿閉と言って本当におしっこが出なくて、膀胱がラグビーボールのようにパンパンになる場合にはとても痛いです。それで苦しそうにして病院に駆け込んで来られた施設入所の方がおられましたが、カテーテルを入れて導尿するとすごく出るのです。それを2、3回繰り返したらその後はなんとか出るようになって事なきを得ている人もいます。自然に促して出るくらいならまぁ目をつぶりましょうか。

(質問者A)わかりました。ありがとうございました。


(質問者B)うちの子どものことを少しお聞きしたいのですが、いま29歳なのですが、下血がありまして、痔かなと思うのですが、鎮静をして腸の検査治療をすることはできるのでしょうか。

(小野先生)もちろんです。そういう状況で、他の病院ではちょっとと言われてうちの病院でやっていることはあります。

一般外科の方で痔かどうかを診る。それからもう少し上なのか診る、鎮静しないとだめです。これも慣れた先生でないと、処置中に足で医者の頭を殴られてしまいますから。安全を確保するという意味でも丁寧に説明して、導入して鎮静してそして安全にやれば問題はないのですけど。一般の方に比べたら面倒な手順を踏まないといけませんが、ぜひやっておかなければ行けません。

(質問者B)血がダラダラ出るので心配です。
(小野先生)それならすぐに調べましょう!

(司会)ひたちなかのCさん、最近体調が悪くて病院を受診しているとか書かれていまして、お話をうかがえますか。

(質問者C)今年48歳になりました。内科には定期的に毎月かかっております。今月かかった時、血圧測定の際に脈が43でした。今のところは大丈夫です。近くの医師にかかっているのでこれからも定期的に様子を見ていきたいなと思っています。体力的には少し落ちてきたかなということを感じています。

(小野先生)その状況なら全く心配はいらないと思いますね。血圧がどうか、心臓のエコー、超音波で心臓の働きを見ると、弁の動きが悪くなることがありますから、エコーの検査で機能を調べること、リズムは問題ないようですね。48歳位になると動きが緩慢になるのは仕方がないですね。食欲や睡眠が大丈夫なら穏やかに同じ調子で暮らすことが一番よろしいかと思います。

(質問者C)わかりました。体重が80kgです。

(小野先生)アラララ、それはまずいです。

(質問者C)食事療法をやっていて一時85kgまであったので、抑えましたがそれ以上減りません。ご飯を少なくして野菜中心にしていますが、とにかく動かないのです。座っていることが多くて散歩に行くのも苦手という感じです。なんとか頑張りたいと思います。

(小野先生)少しずつでも頑張りましょう。


(質問者D)いま先生のお話しをうかがって、アルツハイマーが心配だなと思いました。早期発見や対応が大事だとのお話しでしたが、脳の変化が起きてからでは対策は難しいのかなと思いながらお聞きしました。普段の生活を診ながら、こういうことをチェックしておいたほうが良いということがあるのでしょうか。それからもう一つは、首都圏の方ではダウン症の専門外来があるという現状ですけれど、今後は地方にもそのような動きがあるのか分かれば教えてください。お願いします。

(小野先生)あまたの病気がある中で、私がダウン症を対象に始めたのは、まず数が多いということです。非常にやるべき課題だと思うほどたくさんの方に出会ったということがきっかけです。このコロナのまん延で、一同にお会いして集まることは少なくなりましたが、一方で良かったことは、こうやって、ZOOMでお目にかかりやり取りとかお顔を見たりとかできますよね。これの延長線上で何かお困りになったときに、相談できるとか連携が取れるようなシステムを有志の者で作れば簡単にできますよね。そういったところからネットワークを広げていくのはどうかなと思います。なので、そういうときにまたお力添えいただけたら嬉しいと思います。その時にはよろしくお願いします。

アルツハイマー病ですが、先程の話のように年齢が上がればかなり高率に発症してくるという状況があります。ですが、個人差は大きいのです。ずいぶん早くなってくる方もいれば、かなりのお年でもそうならない方がいます。この違いというのはダウン症でない人においてもそうです。早く発症する人もいれば、100歳になってもならない人もいますから。個人差はありますが、なりやすい人なりにくい人という因果関係の因子というのはあって、日常生活が望ましい形で送れている人はなりにくいようです。そうでない場合には進みやすいと言えるかもしれません。

好きなことをやるというのも良いことです。和太鼓が好きなら和太鼓とか、体も使うしストレスの発散にもなります。本人の気が向き、嬉しいと思うそういう感情が沸き起こる何かがあったらぜひ継続してやっていただくというのは身体のためにもメンタルの面でもとても良い方に働きます。何かあったらぜひお願いします。

(質問者D)わかりました。ありがとうございました。


(司会者)小さいときにはぐずったりしても小児科で診てくれるのですが、大きくなって採算が取れないとかなかなかダウン症を理解してくれていなくてなかなか診てくれない先生が沢山いらっしゃいまして。事務局長、これからこういったところを総合的に診てくださるところを県の組織としても作っていくことが目標かなと言う気がします。

(百渓)東京などでダウン症外来のシステム作りに関わっておられる小野先生に、県をどうしていけばよいのかをこれを機会にご相談できるようになったことは良かったです。小野先生とのお付き合いは古く、全国のダウン症関連のお医者さんを繋いでという組織を作ってやったのですが、なかなかうまく行かなくなってしまったことがあります。あまり大規模に拡大しすぎてしまうと難しいのかもしれませんね。先程先生がおっしゃったように、小さなできるところから繋いでいって、少しずつ広げていくというのが良いのかなと思いました。
昨年から実施した県内医療の状況調査の一部を小野先生に見ていただきました。県内の基幹病院とかいろいろなところにダウン症の人を診ている先生もいらっしゃるようなので、その辺を核にして繋いでいくのか、茨城版小野正恵先生クラスの先生が出てくるのか、皆さんの努力で進めていきたいと思いますので、今後とも宜しくお願いしたいと思います。


(質問者E)よろしいでしょうか。お友達の娘さんなのですが、30歳代の女性です。昼夜逆転というのでしょうか。親が寝る頃に起きてきて、時間が逆になってきてしまって、いくら直そうと思っても直らないのです。何か注意するとお母さんにはすごい暴言を吐く、本当に耐えられないような暴言を吐くそうです。お父さんにはそれほどではないのですが、先のことを考えるとどうしたら良いかと悩んでおられます。

(小野先生)よくあります。大変良くあることなのでご自分のうちだけがと言うことはないです。でも知り合いに聞いても、うちはそんなことはないわよと言われて孤立感を深めているかもしれませんが、世の中には同じようなことがある、同じようなダウン症の方のいる家族がいくらでもありますよ。と言って、自分だけが苦労しているのだとまず思わないことですね。それから、人というのは昼夜のリズムが夜型にシフトしていきやすい性質を持っているんです。ピタッと決まった24時間のリズムではないので、なにかあるとどんどん夜型になっていってしまいます。
生活のリズムを整えるのは大事なことなので、いつも困った子だ、なんとかならないか、この現状はなんとしても許しがたいと、否定的な思いで、辛いですからそう思ってらっしゃると思うのです。けれどその中で少しでもうまく行った、できた、ちょっとだけは改善したというところをよく褒めてあげたりして良い気分にしてあげることと、昼と夜との生活環境ですね。夜起きてきて何をしているのか、例えばタブレットを見ていたり、なにかしているのだと思うのですが、シーンとしていて自分の世界に没頭できて、自分としてはストレスなく過ごせて良い感じなのだと思うのですよ。日中外に出そうとしても自分は少し気後れしている部分がきっとあるのです。それもできない、これもできない、どうせ私はとちょっと思っていたりもするしね。自分だってこれくらいできるさ!という自信を持つことを少しでも見つけて、褒めてあげて、少しずつ少しずつ環境調整をしていくことも一つ大事です。

寝られないというのは逆転しているから夜になっても眠くないのだけれど、少しでも体を動かす、例えば少し手伝ってくれる?と聞いて、できが良くなくても「助かったわ」と褒めてあげて、身体を動かすということを少しずつ薄皮をはぐようにやっていくことです。また、本人が日中、みんなに監視されているという気分にならないような環境も大事です。みんなの目を避けたいと思って夜型になっていくこともあります。強制的にああしろ、こうしろ、だめなやつだと見ているんじゃないのだよ、温かい目で見ているのだということが伝わるような努力もしてもらうし、ちょっと居場所を作り皆の目を遮って自分の世界にこもれるような環境ちょっと作ってあげたりしながら、高望みしないで、一歩一歩やっていただくと良いと思います。

(質問者E)ありがとうございました。

(百溪)先生、うちの娘も夜寝られなくて、睡眠導入剤を何年も使ってよく寝て昼も元気な状態です。風邪薬の眠くなる成分のお薬です。錠剤を潰してゼリーにくるんで夜飲ませています。そうするとしばらくすると本当に気持ちよさそうに寝て、今のところ薬の副作用的なものは見られていません。薬による睡眠導入というのはどうなのでしょう。

(小野先生) 先程の講義のスライドの中に睡眠のことやお薬のことも書いています。睡眠薬やメラトニンなどの薬も適切に使えば効果があります。松果体に働く薬は受容体に作用するものと、最近ではメラトニンそのものが使えるようになりました。
睡眠薬も短時間効くものと、少し長い時間効くものがあります。渡辺さんのお話しに出た方も環境調整しても全然ダメそうな場合にはそういうお薬も使ってみる、無難なものから使って頂くことはとても良いと思います。私の経験では、この程度の薬で効いてしまうのという方と、思いの外効かないという人がありました。やってみないとわからないのですが、お薬も一つの手ですので、やってみても良いと思います。

(質問者E)その方は心臓が悪いので、心臓の先生が睡眠導入剤も微調整しながら出してくださっているようなのです。それでもなかなか寝てくれないようです。

(小野先生)そういうのを使ってもなかなか効かない場合もあるので、生活改善のお話になったわけです。いろいろですね。
(司会者)子どもたちが心身ともに健康で育ってくれることを願って止みません。小野先生、貴重なお話をありがとうございました。堀口さんの方から御礼の言葉をお願いします。

(講演の謝辞)本日はお忙しい中、小野先生にはご講演いただきましてありがとうございました。ダウン症の子を持つ親としてとても身にしみる内容でした。特にダウン症の子どもを取り巻く、療育、医療、メンタルなど幅広い視点で大変参考になりました。他の方からもお話しがありましたが、青年期医療の各部門での連携により、ダウン症に対するフォローがより手厚くなることを切に願います。最後になりますが、小野先生に於かれましては今後ともご自愛いただきましてますますのご活躍をお祈りいたします。本日はありがとうございました。

(休憩時間の余談)
(質問者F)なかなか検査をしてくれないのが困りました。痔だとは思うのですが。恐怖を抱いてしまって検査も受けられないんです。寝て検査を受けるというのが大変ですが、検査のときには全身麻酔になりますか?

(小野先生)そのほうが安全だと思います。恐怖心があるときに、言葉で「安心だよ」と言っても理解はできません。不安だなと思えばどんどんどんどん不安が増加するものです。殺されるような勢いで抵抗しますから。それを抑えようとしてガタイの良い男の先生とかが4人位で両手両足を抑えたら、ほんとに殺されるような恐怖感を持つでしょうね。言葉で説明して「うん、わかった」となるのは難しいことです。採血はできるでしょうから、その時にルートと言って針を固定して、静脈に薬を入れてしまうんです。そうするとスーッと楽になるというかわからなくなりますからその状況で始めるということです。
(質問者F)それをやっていただけると本当にいいです。
(小野先生)本人にとっても医療スタッフにとっても安全第一ですから。話しておさまればそれで良いのですが、物事をやるときにはいつも天秤にかけて、これだけのことをしても良いものかやるべきかです。もし痔ではなくて他の原因で出血していたら大変なことですから。でもね、もしそんな大変なことがあるなら体重が減ってくるとか、いろいろな症状が出てくるわけですよ。しっかり食べてしっかり太っていて、うんちが固くて血が出るということなら99%は痔でしょうね。まず痔の薬を使ってみてそれでも良くならなければ鎮静してでも検査と、段階を踏むとよいかと思います。
(質問者F)お風呂に入ったときにポコっと出ているのがわかったんです。あ、痔だなと。
(小野先生)今は痔の薬も飲むのもあればお尻に塗るのもあります。でも大きくなるとお尻もお母さんに見せたがらなくなってくることもあり大変かもしれませんね。本来の手順から言えばちゃんと診察して診断が順序ですが、まず痔の飲み薬で効くかを診るのが良いと思います。

小野先生、ご講演、そして記事としての収録にご協力いただきありがとうございました。

小野先生のご略歴

1982~ 東京逓信病院小児科勤務
1999~ 東京逓信病院小児科主任医長
2002~2021 杏林大学小児科客員教授
2011~2021 東京逓信病院小児科部長
2019~2021 院長補佐兼務
2021~ 東京逓信病院定年退職、以後非常勤委嘱

資格・所属学会・受賞歴など

小児科専門医
小児科臨床研修指導医
臨床遺伝専門医・指導医
医学博士
一般社団法人 日本家族計画協会理事
平成23年度 厚生労働大臣表彰

論文など

「小児内科」「小児外科」編集委員会共編 小児内科2021 Vol53 増刊号
小児疾患診療のための病態生理2 改訂第6版
東京医学社  Down症候群 182―187
小児神経疾患の知識・看護 ダウン症候群(21トリソミー)(解説/特集)小野 正恵、 こどもと家族のケア 15巻5号
Page20-25(2020.12)
【ダウン症児の育ちと生活】ダウン症のある子ども(解説/特集)
小野 正恵 チャイルド ヘルス (1344-3151)23巻7号 Page478-481(2020.07)
クリニカルガイド小児科 専門医の診断・治療 南山堂 編集 水口雅、山形崇倫
分担執筆 小野正恵 ダウン症候群 p.360―366 2021.3 ISBN978-4-525-28861-7
※2020年度 ダウン関連 日本語のみ

 

東京都千代田区九段北1-9-16 九段KAビル1F小児科・予防接種
乳幼児健診・専門外来(先天疾患)
Web予約など詳しいことはこちらをご覧ください。

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