優生政策論説

【意見】 染色体差別を危惧する

百溪英一 日本ダウン症国際情報センター事務局長

読者の皆様は令和7年度 母子保健対策関係予算概算要求の概要に出生前検査を進める予算が組み込まれていることをご存知でしょうか。これは2023年度から予算化されて「ダウン症の生命の選別排除を目的とした出生前診断」を全妊婦に周知させるという政策です。具体的には妊婦が母子手帳をもらいに保健所や保健センターに来た際に、保健師の方が母子に関する情報提供を行う一環で、胎児の障害や奇形などに関するパンフレットを渡して出生前検査のことを説明しています。このパンフレットを見てホームページに誘導するQRコードなどもありますが、妊婦が不安を増大することになります。

妊娠がわかった時には夢や希望とともにホルモンバランスの急激な変化により、精神的に不安定な状態になる人もいます。こういった時期に不安を増長させる情報を全妊婦に提供することで、深く考えずに検査を受ける方が多く存在します。検査費用は20~40万円にもなりますが、ルポ「命の選別」(千葉紀和、上東麻子著)によれば高額な検査費用を払う人が多いそうです。

令和4年度の妊婦数は790,417人で、全国での検査の売上は高額なものです。出生前検査を受ける事自体は自己決定に任されるものですが、国が公費でこれらの業務の後押しをしている点と、その手口が「判断力の不当な利用(第4条第3項第5号)」や(「不安をあおる告知(第4条第3項第3号)」など消費者庁のいう消費者契約法に基づく「不当な勧誘」に該当する不安商法である点はおおきな問題なのです。

さらに大きな問題はこの特定業者の収益を拡大させる施策により、全妊婦に「ダウン症の人は検査淘汰されても良い(生きるに値しない)存在である」というネガティブな啓蒙をしていることです。

2024年7月に旧優生保護法のもと、不妊手術を強制された障害者たちが国に賠償を求めた裁判に対して「旧優生保護法は憲法違反」との国に賠償を命じる最高裁判決が言い渡されました。また、2023年10月には長年にわたり在日コリアンたちを苦しめてきた「祖国に帰れ」という言葉が名誉毀損だとの訴えに対して横浜地方裁判所川崎支部は、「悪意のある差別的な言動だ」と賠償命令をくだしました。

このような差別の判例から、国が行っている「出生前診断の全妊婦への周知徹底」政策は国家的な障害者差別、染色体差別であると考えられるので速やかに中止すべきです。
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発言力の弱いダウン症の人に代わって本気で人権を守ろうとする親は残念ながら少ないです。ダウン症の人を守る社会に変えるために、黙っている親の分も動いて声を上げる必要があるのです。

もっと詳しくこの事を知りたい方がいれば、講演に伺います。メッセンジャーによる連絡でも結構です。

この意見に対するご意見をいただけると幸いです。

この論説は2024年12月22日につくば市で開催された学習会で百溪がお話した内容の要旨になります。

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