iPS細胞リプログラミングによるトリソミー染色体の自己修正―ダウン症患者の染色体の修正による新たな治療法に向けて― (研究紹介)
常染色体トリソミー症候群は、1対の相同染色体に加えて、特定の相同染色体を1本過剰に持つ染色体異常症です。ダウン症として知られる21トリソミーの他に、18トリソミーや13トリソミーがあります。いずれも卵子や精子が作られる過程で、染色体が正常に分離しないことに由来します。根本的な治療法は今のところ確立されていませんが、培養細胞で過剰な染色体を修正する新たな治療法の開発が進められています。
最近、ダウン症患者細胞をiPS細胞リプログラミングすると、トリソミー染色体に偏って染色体が損失する現象が報告されました。
今後の展開
トリソミーレスキューは、着床前の初期胚でも観察されており、染色体数を正確に保つ生体のメカニズムの一つと考えられます。iPS細胞のトリソミーレスキューは、初期胚のトリソミーレスキューとメカニズムを共有する可能性があることから、本研究成果は生殖補助医療への貢献が期待されます。また、iPS細胞リプログラミングによるトリソミーレスキューは、ゲノム操作を伴わない染色体を修正する新たな治療法として、不妊症やがん治療などの再生・移植医療への応用が期待されます。
また、放射線被ばくは、染色体の数や構造異常を引き起こします。しかし次世代への遺伝的影響はヒトで確認されていません。本研究成果は、放射線被ばくで遺伝的影響が見られないことの解明に結びつく可能性があります。
図1 染色体解析。左:13トリソミー症候群患者の皮膚線維芽細胞、右:樹立したiPS細胞クローン。iPS細胞クローンは調べた20個のメタフェースすべてが正常核型を示しました。
図2 iPS細胞リプログラミングによるトリソミーレスキューのモデル
従来、トリソミーの過剰な染色体に起因する障害に対して治療的な補正ができないかの観点で研究がなされてきました。過剰な染色体が自然消滅する場合があるという新たな発見はダウン症の治療に対して新たな方向性を示した大きな発見だと思われます。すぐに実用化がされるほど容易ではないせよ、注視していきたいと思います。(DSIJ事務局)
以下は概要報告より引用。詳しくは日本医療研究開発機構(AMED)のプレスリリースをお読みください。
発表論文