人権擁護委員制度現状と課題(憲法論叢16号より)

久禮 義一・平峯 譲 「人権擁護委員制度の現状と課題」を読んで

憲法論 叢 16 号 (2009 年 12 月)

国家によるダウン症の人に対するダウン症児者親の会の活動は責務であるが、セルフヘルプグループの活動と社会運動は必ずしも一体ではなく、セルフヘルプグループ内での十分なコンセンサスが必要である。

また、ダウン症児者に降りかかる問題を社会問題として提起して解決していくためには親の会以外の組織、例えば人権擁護団体、自由法曹団、新聞やテレビなどマスコミ、関連学会などへの問題提起と社会的な理解の醸成が必要と思われる。

その中で、親の会が存在する自治体の人権擁護機能について知るために、文献調査を行ったところ、「人権擁護委員」についてのその効力や機能に対する問題提起をする論文に遭遇したので、ここに紹介したいと思う。久禮らはこの論文の中で人権擁護委員が形骸化しており、強く人権擁護活動ができない仕組みになっていることを指摘している。

——–以下は原著論文からの引用———————————————-

(3)問題点

① 法務局への通報程度で権限なし

人権擁護委員制度については, その実効性がかねてより疑問視されてきた。
 その最大の原因は, 人権侵犯事件の調査や救済を担うために必要な権限が, 人権擁護委員にはほとんど与えられていないことにある。人権擁護委員法上は, 「人権侵犯事件につき, その救済のため, 調査及び情報の収集をなし, 法務大臣への報告, 関係機関への勧告等適切な処置を講ずること」 が人権擁護委員の職務として定められているが (11条3号),実際には,調査や情報収集は法務局の職員が行つており, 人権擁護委員は職員に協力するという形で関与できるにすぎない。 同様に, 法務大臣への報告や関係機関への勧告などを行うのも法務局の職員であり, 人権擁護委員が独自に行うことはできない。 また, 「排除措置」や「勧告」, 「説示」 といった人権侵害の被害者を救済するための処置は, 法務局長または地方法務局長の権限であり, 人権擁護委員が自ら被害者救済の措置を講ずることは認められていない。 したがって, 人権擁護委員ができるのは, せいぜい法務局への通報程度であり, 率先して人権救済のために活動することは, 法令上もまた事実上もできないことになっている。

 その結果, 人権擁護委員の主たる職務は, 「自由人権思想に関する啓もう及び宣伝」 (人権擁護委員法11条1号) と人権相談にほぼ限定されることになる。前者は,シンポジウムや講演会,ポス夕一, 各種イベン・トなどを通じて, 人権に関する理解を広げることであるが,ただし予算は少なく,またイベントの実施のポスターの作成等は, 法務局や地方法務局が行つており, 人権擁護委員の関与できる余地は少ない。

 後者の人権相談とは, 人権擁護委員や法務局の職員が, 人権に関する相談に応じることであり, 法務局などに設置された常設相談所や, fl役所やデパートなどに臨時に設置される特設相談所, または人権擁雙委員の自宅などで行われる。 人権相談は, 年間65万件前後受け付ナられているが, その多くは家庭の問題や不動産関係の相談であり, f、権相談というよりは,「もめごと相談」や「法律相談」といった趣0’強い。 それゆえ, 相談後の処理も適切な解決方法を教示するという助言」 が約95%にのぼり, 人権侵犯事件として調査に回されるものま3%に満たない。 また, 人権相談の約75%は法務局の職員によってiわれており, 人権擁護委員が取り扱うものは全体の4分の1ほどである。さらに,人権擁護委員は,相談にかかわる紛争に直接介入することを禁止されており (紛争不介入の原則), 相談者の期待を裏切ることも多いとされる。 

②委員の資質.

 これに加えて問題なのは, 人権擁護委員の資質である。 前述したように,人権擁護委員は平均年齢も高く(図表2),また地域の名士的:i人物が委嘱を受ける.一種の「名誉職」として扱われているため,必fしも人権問題を取り扱うのに適した人材が選ばれているとはいえな、。 人権擁護委員として委嘱された後で, 定期的に研修は行われているものの,講演会形式の「聞き置くだけ研修」が多く,カゥンセリングなどの実践的な能力が養われるわけではない。

 人権擁護委員制度の実効性については, 国連の規約人権委員会からも疑問を呈されており, 法務省の文書においてさえ, 「高齢なるが故にして活動が低調となる傾向も見られないでもない」といった指摘や, 「その活動状況を見ると, ……成果を上げているものがある一方で, 活動実績の乏しい委員も存在し, また, 人権救済活動等に必要な専門性や経験を有する人権擁護委員が必ずしも十分に確保されていないため, 活動の実効性にも限界がある」 といった指摘がなされている。 こうした評価を受けている制度であるがゆえに, 市民の間での周知度も高いとは言えず, 人権侵害を受けやすい人びとからはあまり信頼されていないというのが実状である。

③改善策

このような問題点を克服するための改善策が, これまでに様々な形で提唱されてきており, また90年代半ばからは, 法務省自fも制度の改革に着手し, 専門的な能力を有する人権擁護委員を 「子どもの人権専門委員(子ども人権オンブズマン)」や「人権調整専門委員」といった形で個別に任命し, 人権擁護委員の専門性と機動性を高める工夫を行つてきた。 近年のこれらの試みは,一定の成果を上げているものの, 子どもの人権専門委員や人権調整専門委員といえども, 法令によって新たな権限が付与されたわけではなく, 既存の制度の中での改革であり, 人権擁護委員制度が抱える問題点が抜本的に解消されたわけではない4)o

④委員の体験談

人権擁護委員を体験した石田法子弁護士は次の様に述べている。
日本政府に言わせると, 「全国津々浦々の地域から人権活動をやるということで,諸外国には例がない素晴らしいものだ」ということになりますが, 実態はそうではないと思います。 なぜなら, 実は私自身が,ほぼ10年間にわたって,この人権擁護委員を務めていたからです。 その実感からすると, 「この制度はほとんど意味がない」 というのが, 私の正直な結論です。

 なぜ,そういうことになるのかといいますと,一つには,「地域住民で,人格・見識が高くて,広く社会の実状に通じていて,人権擁護に理解がある人で, なおかつボランティアで」 といった条件を満たそうと思えば, どうしても, 一定の年齢以上の方でなければ難しいわけです。その結果, 非常に名誉職的な意味合いが強くなってしまってし、る,という問題があります。それに,ボランティアで無償ですから, 働き盛りの人間でこれをできる方は, 弁護士を含めて, どうしても自由業的な立場の人に偏つてしまいます。 しかも, 全国津々浦々に14,000人も配置するわけですから, その中には当然, 人権問題にそれほど関心や情熱のない人も含まれてきます。

 また, 人権侵害事件に対する調査権限もなければ, 強制力もありません。そのために,人権侵害事件の相談を受けても,結局は,「まあまあ」という程度の斡旋にとどまらざるをえません。
委員の活動は法務局の主導で 「人権救済」 の面では人権擁護委員制度は全く機能していません。

—–原著からの引用終了——————————————————–

以下に重要なことが書かれておりますが、原著論文をぜひお読みください。
③人 権擁護推進審議会の答申
④人権擁護法案 

⑤結びにかえて

 

詳細については原著がPDFで公開されていることからお読みいただければ、ダウン症の人たちの人権を守るためにはこういった行政の仕組みについても親が一層の学習をして必要な点は申し入れをして改めさせていく必要があると思われます。
人権擁護には多大な努力が必要ですが、人権蹂躙はいとも簡単に起こり、その多くが公権力によるものであることから、基本的人権を持つ国民、特に弱者やマイノリティーに対する人権侵害については国民の意識がより啓発される必要がある。
その点で、問題点を指摘したこの論文や、法務局が公知している「人権擁護委員の果たすべき役割」については多くの人がこれを読んだ上で、それぞれの地方自治体の人権擁護委員が適正な活動を行っているのかを検証していくことが必要であろう。
(DSIJ 世話人・東都大学客員研究員 百溪英一)

参考文献

人権擁護委員制度の現状と課題、久禮 義一 ・ 平峯 譲人、憲法論叢 16 号 (2009 年 12 月)https://www.jstage.jst.go.jp/article/houseiken/16/0/16_KJ00006204264/_pdf/-char/ja

法務省:人権擁護委員の果たすべき役割 パブリックコメント集が興味深い。

人権擁護委員制度の沿革,現状及び課題

法務省・人権擁護委員制度の位置付け

法務省人権擁護委員をご存知ですか?

日本の人権擁護活動と問題点、高野真澄、(有楽解放同盟の文献書庫より「マイノリティー研究会」)

再検討要請 法務局資料:人権擁護委員に関する制度その他の問題提起。

特集:人権委員会を検証する Part 1:日本の人権保障制度のゆくえ -人権擁護法案と人権委員会構想の問題点 国際人権ひろば No.43(2002年05月発行号

あなたも人権擁護委員になりませんか(法務省のカラーパンフレット)

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