日本ダウン症ネットワーク(JDSN)の活動(資料)

日本ダウン症ネットワーク(JDSN)の活動について

インターネットによるダウン症情報ネットワーク

(遺伝子医学Vol.2 No.2 1998 第4号より転載)


巽 純子 京都大学医学研究科 放射線遺伝学教室 助手
百溪英一 農林水産省家畜衛生試験場 分子病理 室長
古川徹生 九州工業大学 情報工学部制御システム工学科 助手
黒木良和 神奈川県立こども医療センター 遺伝科
*所属肩書は全て当時のものです。


Keywords ダウン症、インターネット、ホームページ、データライブラリー、メーリングリスト、情報検索システム、日本ダウン症ネットワーク委員会、電子メール相談


■はじめに

 われわれは,1996年にダウン症児や他の障害を持つ子の親を対象として,産科・小児科での告知の有無,時期,その時の説明内容,医療スタッフに対する不満,公的支援の現状,一般における障害者に対する理解と取り巻く環境などの項目を合むアンケート調査を実施した1)

 その結果,次のような「情報における問題点」が浮かび上がってきた.

①初めてダウン症児の親になった人が情報の不足を感じている(最初に出会った医者が,どのように発達するか,どのように子供を育てるか,療育機関,親の会について知らない.行政の窓口のどこで,どのような福祉サービスがうけられるかわからない).

②情報の地域的不均一(出生前診断や誕生の告知とフォローアップ,育児,療育,教育,健康管理一般等に関する情報やサービスの質や量の地域格差は大きい).

③わかりやすい情報が少ない(専門的すぎ,受け手の状況に即していない情報が多い).

④情報の質(偏った情報,科学的根拠lのない情報がある).

⑤情報のデータベース化が不十分,特に学際的に整理された情報が欠如している.

 これらの問題点を解決するために,われわれは,現在急速に普及しつつあるインターネットを利用し,各地域の医療機関,保健所,行政機関,大学,学校,各家庭などから簡単に情報を引き出せる情報提供システムを構築した.インターネットが利用できる環境があれば地域格差なく,また,情報自体の経費はかからないことがこのシステムの大きなメリットである.情報の利用法としては,医療スタッフが出生前診断の際,あるいは出産直後にダウン症について告知やカウンセリングする場合に参考にしたり,親・家族が療育,医療,福祉,教育,職,健康問題.人権問題などについて詳しい情報を知りたい時,また,ダウン症者を受け入れた学校,職場の人々が対応に困った時に参考にしたり,福祉行政担当者がダウン症児について全般的なことを知りたい時などが考えられる.

●方 法
1.JDSN設立の経緯と全国のネットワーク

 「日本ダウン症ネットワークJDSN)ホームページ

は,ダウン症に関する情報の提供を目的に,茨城県ダウン症協会により1995年7月にインターネット上に開設された.さらに,JDSNホームページを接点とし,北海道,東京都,神奈川県,茨城県,愛知県,京都府,石川県,兵庫県,福岡県などの各地のダウン症児の親や兄弟姉妹と各領域のダウン症に関連する専門家(小児科医や療育の専門家,言語療法士や心理指導員,障害児教育者など)が学際的に結集,協カし,1996年12月に日本ダウン症ネットワーク(JDSN)委員会(委員長:武部啓京都大学医学部教授)を設立した.現在,JDSN委員会(1998年1月現在のメンパー数:73名)はJDSNホームページの企画,編集を行い,国内の親,親の会,専門家,機関の情報ネットワーク化を行っている.この委員会は,また一般へのダウン症に関する 正確な情報の提供と社会啓発をも目的としている.さらに,JDSNはアジア太平洋ダウン症協会,国際ダウン症連盟の窓口として国際的な情報交流と 相互協力を進めている.

2.メイリング・リストの運営

JDSNから提供する情報は,正確さと受け手の心理的背景も配慮した表現を心がけなければならない.そのために,親だけでなく,ダウン症に関わってきた各領域の専門家から,種々の情報をできるだけ多く集め,情報を分類整理し,加工,蓄積,普及,利用するためのカを出し合う必要があると考えられた.そこで,JDSN委員がJDSNホームページの企画や編集を行い,また運営について意見を交換するため,1997年l月からメイリング・リスト,jdsnがスタートした.さらに,データライブラリの構築に関しては,検索プログラムの構築など,情報工学的な綿密なやりとりが必要になったため,コンピュータ関係の専門家を合むサブ・メイリング・リストとして,jdsn-libを1997年7月からス夕一トさせた.いずれもメンパーだけの閉じたメイリング・リストである.

3.インターネットによる医療,療育.教育,福祉相談

 JDSNホームページでは,「うえっぶ会議室」を設け(図2に示す画面)

,次のような事項別のホームページ読者間の意見の交換,相談の場を設けている.すなわち,主にJDSNへの要望 など広い話題の意見交換としての1) JDSNフォーラム,講演会・会議・学会・書籍などのダウン症に関する最新情報を 交換する,2)JDSN掲示板,健康や生命倫理について意見を交換する,3)いのちと健康会議室,4)療育・教育会議室, ダウン症者の社会参加や公的援助について意見を交換する,5)社会参加と福祉会議室,6)全国ダウン症児親の会連絡会,7)兄弟姉妹ネットワークフォーラム,8)談話室,である.しかしながら,「うえっぶ会議室」は,インターネット上に掲 載されるので,公開されるのが不都合な場合は,事務局への直接の電子メールによる相談が可能なように配慮されている .受け付けた相談は,メィリング・リストjdsnでJDSN委員会のメンパーに知らされ,対応できるメンパーが個々に相談に のるように配慮している.

4.ダウン症データライブラリ

 われわれは,ダウン症に関わる様々な情報を,情報を必要としている人が容易に検索できることを目的とし, データライブラリを作成した.データライブラリは,ホームページに比べ,より具体的な項目別の検索に中心をおき,知り たい項目についての論文,体験談,報告書,絵,写真,講演報告などが返されるようになっている.従って,すでにダウン 症と関わっている人や初めて親になった人が,より具体的な情報を知りたい場合に利用されるものとして位置づけられる. 図3に示すようなデータラィブラリ検索画面

は,親や専門が異なるものでも検索しやすいように章・節で情報を整理した目次方式をとっている.さらに,あらかじめJDSN委員の方で情報の内容別データを編集し,登録作業を行っている.ただし,データの内容について不正確であったり,受け取り手に配慮のない情報の登録はしていない.この結果,データライブラリヘの登録さえすめば,個々のデータはそれが世界のどのコンピュータに格納されていても,検索プログラムによって必要な人が必要な事項について簡単に引き出せるのである.内容は,ダウン症児を初めて持った親に対する励ましのメッセージにはじまり,ダウン症に関する医療・保健的な問題に関する情報やダウン症の出生前(スクリーニング)検査が持つ倫理的間題,実際の生活面での情報,療育,教育,生涯を適じた行動,心理の間題,就労の情報,福祉の情報,またそれらの地域別情報である.これらは目次から知りたい情報に行き着くことができるほか,50音検索やキーワード検索も可能である.なお,検索と登録のブログラムはper1で作製した.

●結 果
1. JDSNホームページとダウン症や遺伝病関連サイト

 ダウン症をはじめとする,先天異常や遺伝的疾患を持つ当事者や家族を支援するホームページや医療・教育関係機関の障害児関連ホームページは,世界各国に最近急激に増加してきている.日本のダウン症および遺伝病関連サイトは88にのぽり,JDSNホームページの中にリンク集として網羅されている.内訳は ,ダウン症児の親の会のサイト,ダウン症児の親個人のホームページが22サィトで,医療福祉青報が17サイト,その他の遺伝病関連が 13サイト,障害者教育関係5サイトなどである.また,世界各国の患者・家族支援グループの持つホームページとのリンクにより, 海外の情報や状況も日本にいながらにして読むことが出来る.現在,JDSNホームページがリンクしている海外のダウン症関連の支 援団体のサイトは12ケ国41のサイトにのぼる. さらに,支援団体だけでなく,国際会議のホームページやダウン症関連の書籍・ビデオを掲載したホームページ,またダウン症に限ら ず,障害児全般の教育(21サイト)・医療(6サイト)・心理(3サイト)や他の先天異常・遺伝病関連のホームページ(8サイト)がリ ンクされている.・これは,だれもが利用しやすいように日本語解説つきで地域・項目別に配置してある(画面の一部を図4に示す).

2.JDSN委貝とメイリング・リス

JDSN委員は当初18名からスタートしたが,1年が経過した現在4倍以上に達した.委員会のメンパーは,親であり各種の専門家であるというメンパーが約半数で,遺伝や療育を専門とする小児科医や,ダウン症に合併する医療ケアという点で,循環器専門医や耳鼻咽喉科専門医,歯科医,また障害児教育,福祉の関係者も参加している.メイリング・リストjdsnに寄せられるメンパーの意見も1カ月平均162通にのぼる活発さである.このためメイリング・リズトを用いて効率よく議論が進み,現在までのJDSNの活動を支えている,サブ・メイリング・リズトであるjdsnjbは,データライブラリ構築のための実務的なやりとりに大きな役割を担い,居場所が離れていても,登録,検索プログラムを作製する上でうまく役割分担を行うことができた.

3.インターネツトによる相談

 1996年8月16日の「うえっぶ会議室」開設から1998年1月20日までの会議室への投稿記事数は919件であった.投稿事項で多かったのは,JDSNへの要望や広い話題を扱う�@JDSNフォーラムと�G談話室で,それぞれ290件であった.その中には初めてダウン症児を持った親が,どのように子どもが育っていくのか,見通しが持てないことへの不安,どこでどのようなケアが受けられるのかわからないといった情報面の相談が多かった.また,�Bいのちと健康会議室と�C療育・教育会議室もそれぞれ100件程度あり,就学,療育に対する相談,また出生前診断に関する意見交換も活発であった.他に,直接に事務局への電子メールによる医療,健康面での質間は現在まで10数件あり,メイリング・リスト内で流し,個別に投稿者へ回答を送った.相談を通して,まだ医療機関でのカウンセリングが不十分であったり,近くでセカンドオピニオンを求められない状況や福祉行政の状況,障害児の保育所の入所や就学の地域格差があることがわかった.このようなインターネットを介してのフィードパックは,JDSN委員会の取り組みの方向付けに大いに役立っている.

4.ダウン症データライブラリ

 データライブラリヘは,JDSNホームページの画面からも入ることができるが,より早くアクセスするには下記のURLで可能である.

http://jdsn.ces.kyutech.ac.jp/jdsn-bin/jdsn-lib (*現在は廃止)

 1997年11月20日に一般公開したが,1998年l月現在までに728件のアクセスがあり,1日平均16件のアクセズがあったことになる.アクセスした人のダウン症との関連は,親・本人・家族が最も多かったが,医療や教育の関係者もかなりあった.また,目次の各項目は,どの項目も満遍なく5-10人程度に読まれている.

5.日本ダウン症フォーラム開催

 オンラインで得られる情報や交流をベースに,ダウン症の当事者を中心においた学際的な話し合いや交流の場がオフラインでも必要であるとの認識から,JDSN委員会の主催で年1回「日本ダウン症フォーラム」を開催することになった.第1回を1996年8月につくば市で,第2回を1997年11月に京都市で開催した.第1回では海外からの講師を招き,海外からもインターネットでの参加を可能にする試みを行い,第2回では,ダウン症の当事者がパネラーに立ち,日本では今まで見過ごされがちであった当事者の参加という試みを行った.

●考 察

 ダウン症児・者および親・家族への直接的な援助としての情報提供だけでなく,多岐にわたる情報(JDSNホームページやデータライブラリ)を無料で公開することにより,情報が医療や療育・教育,福祉の場で利用され,一般の人々における知的障害者への偏見の是正,学校教育の場における共生の意識の育成などの間接効果が期待される.間接的には当事者を取り巻く社会環境の整備となると思われる.またJDSN委員会は,単にインターネット上の情報作成・提供だけに留まらず,全国規模でかつ親や専門間の壁を乗り越えたダウン症に関する学際的ネットワークを発展させつつある.このように,障害児福祉や患者会に関連した情報ネットワーク機能を利用した活動はわが国初の試みである.

謝辞

 この情報提供システムは,JDSN委員会の全ての委員の善意と協カなくしては成り立ち得なかったものであることを,委員の方々ヘの感謝と共につけ加えさせていただきます.また,委員長である京都大学医学研究科の武部啓教授のご理解と援助にも感謝いたします.


参考文献

l)巽純子他:「出生前診断」およぴ「母体血清によるスクリーニング検査」に関するアンケート調査の結果報告書.1996.

*当時の資料データをもとに再構築しているので、リンクの多くが執行している点はお許しください。其れまでのどこの親の会組織にもない新しい試みが心ある専門家と親たちにより作り出されたことは画期的なことでしたが、あまりにも多くの理事が存在したことと、当時全国組織化を目指していた、東京のダウン症児者親の会の者たちがJDSNの会員に入り込み、更に理事に立候補して、活動妨害を執拗に繰り返してネットワークを中心に活動をしていたJDSNは機能の低下を點せられました。これはJDSNが誰にでも開かれた組織運営を心がけたところを悪用したものでした。JDSNのメーリングリストには理事に就任した途端にJDSNの法人解散議案を出すなど、ひどい事が起きた記録が残されています。

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